陽気で人が大好きだというチワワの『ティファニー』が、いろんな人に飛びついて困っている、という相談を受けました。飼い主さんは、ティファニーがあまりにも元気で部屋の中を走り回るので、「脳に異常があるのではないか」と心配していました。場合によっては、引き取り手を探して手放すことも覚悟しているということでした。

実際に会ってみると、確かに元気だし私もさんざん飛びつかれましたが、ちゃんとわかってやっているようで、脳に異常があるようには思えませんでした。逆にこちらの動きをとても素早く察知して梭敏に動くので、賢くて運動神経がいいチワワ、もしくは作業意欲が高くエネルギーが余っているチワワ、という印象でした。

そんなティファニーは、子犬のころから有名な訓練所に預けられていたそうです。そこではたたく、蹴るなどの体罰が使われていたということで、今でもその訓練所の先生が家に来ると、借りてきた猫のようにおとなしくなってしまうそうです。

「(前に預けていた訓練所の)先生は、ティファニーが少しでも指示に従わないと、私もびっくりするくらいの勢いで罰するんです。それはもう、すごかったですよ」と、飼い主さんが苦笑いしながら教えてくれました。恥ずかしながら、私も前は同じことをやっていた事実を白状しました。

ティファニーは、どの人の言うことを聞かないと痛い目に遭うのか、ちゃんと学習しています。やはり脳に異常はなさそうです。私が飛びつかれるのがまんざら嫌じゃない人間であることも、よくわかつていたようにも思います。

もともと明るくて打たれ強いティファニーは、少々たたいたくらいではへこたれなかつたと想像します。なので訓練士も、必死になって相当強く体罰を入れないとコントロールできなかったのではないでしょうか。そしてティファニーは、その相当な力に従うことを学んだのです。

飼い主さんは、60代のきゃしゃな女性。当然訓練士と同じ力で蹴ったりたたいたりすることはできません。ティファニーはそのことをすぐに理解して、飼い主さんの力でたたかれたり蹴られたりしてもまったく動じず、自分のしたいように振る舞っていました。

海外で研修をしていたころ、とくにレトリーバーは痛みに強いことを教わりました。不妊手術後、家に帰って来てうれしそうに飛び回るので放っておいたら、傷の縫い目からうっすら血がにじんできたため慌てて動物病院へ。あと少しで部屋じゆうに内蔵をぶちまけるところだった。と獣医さんから聞かされた、なんていう話もあるくらいです。痛みに鈍感なのは、とても危険なことなのです。

私も以前訓練所に勤務していたころは、恥ずかしながらレトリーバーたちを蹴っていました。そうするよう指導を受けていましたし、それが正しいと信じていたからです。

ある日のトレーニング中、走り回って言うことを聞かないレトリーバーを痛い目に遭わせてやろうと、思いっきり蹴飛ばしたのですが、その瞬間足首に激痛が走りねんざしたこともありました。それでも犬は楽しそうに走り回っていました。犬は何も学習せず。私の足に痛みだけが残ったのです。

もちろん、今ではそういったトレーニング方法は使っていません。痛みで教え込もうという発想は、できなくなったのです。そんな方法よりも、もっと犬が学習してくれる方法があることを知ったからです。