飼っているチワワの『ミック』が深夜から明け方にかけて吠えるようになってしまったので、しつけ教室の先生に相談したところ、主従関係を作るためにと勧められて『アルファ・ロールオーバー』を始めた飼い主さんご夫妻。

実際にやってみたら、ミックはものすごく暴れ、飼い主さんは噛まれてしまったそうですが、それでも先生が「負けないでがんばれ」と言うので、傷を作りながらも続けていたそうです。

ミックは体重2㎏強。押さえつけるのは誰でもできます。アルファ・ロールオーバーを続けているものの、ミックは相変わらず暴れ続け、最近ではうなり声を出すようになったそうです。深夜から明け方にかけての吠えもいっこうに止まず、疑問に思った飼い主さんが私のところに相談してきたというわけです。

実際会ってみると、ミックはとても人なつこく、愛想のいい犬でした。彼は家に人が来るのがうれしくて、なでてやると柴犬独特の笑っているような表情で、目を細めてとても喜んでくれます。

ミックは30日齢でペットショップからやって来たということで、母犬や先輩犬たちにひっくり返された経験はほとんどないと思います。この場合には、アルフアーロールオーバーを続けていると飼い主さんとの関係を壊してしまうと判断したので、いったん中止していただきました。そしてベースプログラムの実施に加えて、「明け方に吠えても絶対に犬の部屋へ叱りに行かず、無視すること」、この1点をお願いしました。

ミックとの我慢比べはご近所迷惑にもなり得るので、吠えても無視しなければならないことを、ご近所にひと言冒っておくようお勧めしました。ご近所の方も、飼い主さんが改善の努力をしようとしているのか、していないのかでは感じ方が違うと思うからです。

そうして徹底的に無視した結果、ミックの吠えは1週間もしないうちになくなりました。

よく観察したところ、お隣の方の帰宅時間が不規則だったそうで、深夜や早朝に出かけたり帰ってきたりすることがあり、それに反応して吠えるようになっていたそうです。

実際、夜中の3時ごろにミックが吠えたので外の様子を伺うと、近所で見かけない人が歩いていたこともあったそうです。なかなか優秀な番犬ぶりです!

「アルファ・ロールオーバーがすべて良くない」というわけではありません。ただ、ミックの吠えを直すために、アルファーロールオーバーは必要なかったというだけのことです。

今までは欧米発祥のしつけ法をすべての犬に採用してきましたが、今、そういったしつけを見直すべきだという声も上がっています。犬の気質を考慮した独自のしつけ法があるべきなのではないか、と考えるドックトレーナーも増えてきています。私もこれには賛成です。

この件に関しては、今後の取り組みのなかで考えていけたらと思っています。

 

「うちのチワワは、お腹を見せないんです」と、困ったようにチワワの飼い主さんから相談されることがあります。では、お腹を見せなくてはならない理由は何でしょう?

子どものころに飼っていた犬も含めると、私は今まチワワを飼ってきましたが、一度も「お腹を見せるためのトレーニング」をしたことはありません。でもみんな、お腹を見せるのは嫌がりません。無理やりひっくり返しても大丈夫。

あるチワワなど、自分からひっくり返って「撫でろ!」と命令してくるくらいです。もちろん、叱られてお腹を見せるときもありますが、本当に謝っているようには思えないですね。「はいはい、これでいいんでしよ?」ってやられているように感じることが多いような(苦笑)。

愛犬がお腹を見せないことに悩むチワワの飼い主さんが多いのは、『アルファーロールオーバー』というしつけ法の影響もあるようです。「犬はアルファ(リーダー)にお腹を見せるものなので、何か悪いことをしたら、犬を床に押さえつけてお腹を出させて叱りましょう」という理論です。横向きに押さえつける、というのもあります。

ひざの上などでお腹を出させて、ゆっくりなでてやってリラックスさせる「ホールド・スティール」という方法もありますが、どんなにやさしくやってもパニックを起こして抵抗するチワワもいます。

よく見ていると、その様子は反抗というよりは怖がっているように見えます。

なかには最初は怖がったけれど、慣れてくるとリラックスして寝てしまう子犬もいます。なので、やってあげても問題はないですし、おとなしくできるようになったら、その格好で爪切りや歯みがきもできるし、たいへん便利だと思います。

私も以前、(とくに子犬のしつけでは)1日1回はやるようにアドバイスしていました。でも犬によってはかえって状態が悪くなりそうなケースもあり、今では慎重に扱うようにしています。

また、以前子犬を産ませ、その子育てを観察した経験から、私は人が力ずくでやる「アルファ・ロールオーバー」に疑問を持つようになりました。

子犬たちが生後30日くらいになると、母親から離れて子犬同士で遊ぶようになります。元気な子はよちよち走り出します。そのころから、わが家のチワワの子犬に対するしつけが始まりました。母犬であるチワワは、しつけらしいことはとくに何もしませんでした。たまに子犬のそばにやってきてひっくり返し、もう自分でできるようになっているのに排泄のチェックをしたくらいです。そのひっくり返す力は、人が出せるほど大きく恐怖を感じさせるような力ではありません。

母親に強引にひっくり返されるこの行動が、服従のポーズにつながっていると言われていますが、それ以上に群れの成犬、とくにオス犬たちが担う子犬のしつけがお腹を出す行動に重要な役割を果たしたと実感しています。

子犬が興奮しすぎて走り出したりすると、父犬が飛んでいって「ガウッー」とうなって子犬をひっくり返すのです。結構な迫力でやりますので最初はいじめに見えます(笑)。子犬は数頭いましたので、ひっくり返っては起き上がってくる子犬たちを、まるでたこ焼きをひっくり返すように。今度はこっち、次はあっちとひっくり返していました。

子犬たちは最初びっくりしますがだんだん慣れて、まるでソンビのように蘇り、再び父犬にガウられに向かっていきました。父犬にさんざんひっくり返された子犬たちは、私が四つんばいで近づいて鼻先で押してやっても、いとも簡単にひっくり返るようになりました。

父犬9歳と4歳になった当時の子犬のうちの1頭は、今でもこの教育的指導噛みごっこ(?)をやっています。子犬が興奮しすぎると、父犬が
子犬のマズルをくわえてたしなめるのです。また、子犬が父犬にたしなめられたいときは、わざわざ伏せのポーズで下から「噛まれに」いくのです。父犬が、小さな子犬に近づいて、フセのポーズでマズルの下に入る姿は、なかなか興味深いものがあります。

わが家の犬たちは、すべて同じブリーダーさんのところから来ました。みんなブリーダー元のボス犬にひっくり返され続けた経験があるからこそ、今、ひっくり返されることに何の抵抗もないのだと思います。

お腹を見せるのを異常に嫌がるチワワを見たとき、その子は母犬や父犬がしたようなしつけを受けていないのではないか、あるいは受けた時間が短かったのではないか、と考えるようになりました。

慣れていないから怖くてパニックになってしまう。抵抗する理由は、飼い主への反発ではなく恐怖なのかもしれません。それを。不服従‘ととらえてしまうのは、相手を正しく理解してやれているとは言えないような気がします。

お腹を出したからといって、飼い主に服従しているということではないし、お腹を出さないからといって服従していないということではないと思います。

お腹を出すことは無理に教えることではありませんが、出せたほうが良いこともあります。たとえば、お腹の触診、心音を測るなど、動物病院ではお腹を出すとスムーズに診察ができます。愛犬がもし苦手なようでしたら、まずは信頼関係を築いてからゆっくり慣らしてやるべきだと思います。自信がない場合には、ドックトレーナーなどに相談してみましょう。