前回の元気すぎるチワワの一件に進展があったので軽くご報告です。

ティファニーのケースでは、まず「パワー・デトックス」から始めることにしました。訓練士にたたき込まれた、力で犬をコントロールしようとするトレーニングを忘れてもらう作業です。私自身も、飼い主さんに出せるくらいの力でティファニーと接するよう気を付けました。

力ではなく、ティファニーが自ら理想的な行動をするように導かなければいけません。幸い彼女は食いしん坊なので、食べもののごほうびがとても有効でした。食べものを使う場合には、タイミングがとても大事です。

飼い主さんは、ティファニーの行動に困ることはあっても、やはりかわいいということでかまいすぎる傾向があり、意味もなく声をかけたり、食べものを与えたりしてしまっていました。

3時のおやつは、犬には必要ありません。そんな習慣から脱出する必要があり、まずはベースとなるチワワのしつけのプログラムを実施してもらいました。

2週間も経たないうちにティファニーの「脳障害疑惑」は晴れ、家で一緒にいるときはずいぷんとおりこうになった、と飼い主さんから連絡をいただきました。

2回目のレッスンではお散歩トレーニングをしたのですが、歩き方は訓練所ですでに教わっているので、導けば歩けるはずです。実際、急に飛び出して私を試すようなそぶりを見せましたが、チワワくらいでしたら片手で止められます。その力を悟ったのか、すぐにティファニーはおとなしくなりました。

しかし飼い主さんに代わると途端にリードを引っ張り、好きに歩き始めます。ティファニーは「飼い主さんを思い通りに引っ張れる」と学習してしまっているので、それを改める必要があります。

犬に引っ張られて動いてしまう人はお散歩のトレーニングができません。飼い主さんご自身がティファニーに歩き方を教えられるよう、少ない力で犬をコントロールすることが可能な道具、ヘッドカラーのジェントルリーダーを使うことにしました。

ジェントルリーダーを着けると、通常の首輪より少ない力で犬をコントロールすることができます。マズルをコントロールするので、首輪よりいっそう精神的に犬をコントロールすることができるのです。

ジェントルリーダーを着けたらリードを短く持ち、犬をできるだけ自分の側に寄せてゆっくり歩きます。ジェントルリーダーを外そうと暴れても、できるだけかかわらないようにしてください。多少絡まってしまっても放っておくのがポイントです。中途半端にかまうと、わざと絡ませるようになりますのでご注意ください。

最初のうちは、5mおきくらいに立ち止まって犬を座らせます。手で押しても、指示を出してもかまいません。食べものを与える必要はありませんが、上手に歩けて笑顔で見上げてくれたときなどは、気持ちが良いかと思いますので与えてもよいでしょう。基本は言葉でほめてやることで十分です。

ティファニーは興奮しやすい性質でしたので、大げさにほめると飛び上がってしまいます。なでずに落ち着いたトーンの声をかけるだけにしてもらいました。

このパワーデトックスをして、訓練所で着けられたチェーンカラー(鎖状の閉め首輪)からジェントルリーダーに変えてトレーニングを始めて2週間も経たないうちに、飼い主さんから感謝のお電話をいただきました。

「ティファニーは相変わらずおてんばですが、とてもいい子になり、穏やかな時間も過ごせるようになりました。脳に障害があるかしらなんて思ってしまったことを後悔しています。問題は私にありました。この子を手放さなくて本当によかったです」

よかったね、ティファニー。あなたは前向きで、元気で明るい子です。だから、訓練所でたくさんたたかれたり蹴られたりしたのに、人を嫌いにならなかった。本当にいい子です。

ママもわかってくれたようなので、これからはもっともっと仲良く、ママと幸せに暮らしてね。

 

陽気で人が大好きだというチワワの『ティファニー』が、いろんな人に飛びついて困っている、という相談を受けました。飼い主さんは、ティファニーがあまりにも元気で部屋の中を走り回るので、「脳に異常があるのではないか」と心配していました。場合によっては、引き取り手を探して手放すことも覚悟しているということでした。

実際に会ってみると、確かに元気だし私もさんざん飛びつかれましたが、ちゃんとわかってやっているようで、脳に異常があるようには思えませんでした。逆にこちらの動きをとても素早く察知して梭敏に動くので、賢くて運動神経がいいチワワ、もしくは作業意欲が高くエネルギーが余っているチワワ、という印象でした。

そんなティファニーは、子犬のころから有名な訓練所に預けられていたそうです。そこではたたく、蹴るなどの体罰が使われていたということで、今でもその訓練所の先生が家に来ると、借りてきた猫のようにおとなしくなってしまうそうです。

「(前に預けていた訓練所の)先生は、ティファニーが少しでも指示に従わないと、私もびっくりするくらいの勢いで罰するんです。それはもう、すごかったですよ」と、飼い主さんが苦笑いしながら教えてくれました。恥ずかしながら、私も前は同じことをやっていた事実を白状しました。

ティファニーは、どの人の言うことを聞かないと痛い目に遭うのか、ちゃんと学習しています。やはり脳に異常はなさそうです。私が飛びつかれるのがまんざら嫌じゃない人間であることも、よくわかつていたようにも思います。

もともと明るくて打たれ強いティファニーは、少々たたいたくらいではへこたれなかつたと想像します。なので訓練士も、必死になって相当強く体罰を入れないとコントロールできなかったのではないでしょうか。そしてティファニーは、その相当な力に従うことを学んだのです。

飼い主さんは、60代のきゃしゃな女性。当然訓練士と同じ力で蹴ったりたたいたりすることはできません。ティファニーはそのことをすぐに理解して、飼い主さんの力でたたかれたり蹴られたりしてもまったく動じず、自分のしたいように振る舞っていました。

海外で研修をしていたころ、とくにレトリーバーは痛みに強いことを教わりました。不妊手術後、家に帰って来てうれしそうに飛び回るので放っておいたら、傷の縫い目からうっすら血がにじんできたため慌てて動物病院へ。あと少しで部屋じゆうに内蔵をぶちまけるところだった。と獣医さんから聞かされた、なんていう話もあるくらいです。痛みに鈍感なのは、とても危険なことなのです。

私も以前訓練所に勤務していたころは、恥ずかしながらレトリーバーたちを蹴っていました。そうするよう指導を受けていましたし、それが正しいと信じていたからです。

ある日のトレーニング中、走り回って言うことを聞かないレトリーバーを痛い目に遭わせてやろうと、思いっきり蹴飛ばしたのですが、その瞬間足首に激痛が走りねんざしたこともありました。それでも犬は楽しそうに走り回っていました。犬は何も学習せず。私の足に痛みだけが残ったのです。

もちろん、今ではそういったトレーニング方法は使っていません。痛みで教え込もうという発想は、できなくなったのです。そんな方法よりも、もっと犬が学習してくれる方法があることを知ったからです。

 

飼っているチワワの『ミック』が深夜から明け方にかけて吠えるようになってしまったので、しつけ教室の先生に相談したところ、主従関係を作るためにと勧められて『アルファ・ロールオーバー』を始めた飼い主さんご夫妻。

実際にやってみたら、ミックはものすごく暴れ、飼い主さんは噛まれてしまったそうですが、それでも先生が「負けないでがんばれ」と言うので、傷を作りながらも続けていたそうです。

ミックは体重2㎏強。押さえつけるのは誰でもできます。アルファ・ロールオーバーを続けているものの、ミックは相変わらず暴れ続け、最近ではうなり声を出すようになったそうです。深夜から明け方にかけての吠えもいっこうに止まず、疑問に思った飼い主さんが私のところに相談してきたというわけです。

実際会ってみると、ミックはとても人なつこく、愛想のいい犬でした。彼は家に人が来るのがうれしくて、なでてやると柴犬独特の笑っているような表情で、目を細めてとても喜んでくれます。

ミックは30日齢でペットショップからやって来たということで、母犬や先輩犬たちにひっくり返された経験はほとんどないと思います。この場合には、アルフアーロールオーバーを続けていると飼い主さんとの関係を壊してしまうと判断したので、いったん中止していただきました。そしてベースプログラムの実施に加えて、「明け方に吠えても絶対に犬の部屋へ叱りに行かず、無視すること」、この1点をお願いしました。

ミックとの我慢比べはご近所迷惑にもなり得るので、吠えても無視しなければならないことを、ご近所にひと言冒っておくようお勧めしました。ご近所の方も、飼い主さんが改善の努力をしようとしているのか、していないのかでは感じ方が違うと思うからです。

そうして徹底的に無視した結果、ミックの吠えは1週間もしないうちになくなりました。

よく観察したところ、お隣の方の帰宅時間が不規則だったそうで、深夜や早朝に出かけたり帰ってきたりすることがあり、それに反応して吠えるようになっていたそうです。

実際、夜中の3時ごろにミックが吠えたので外の様子を伺うと、近所で見かけない人が歩いていたこともあったそうです。なかなか優秀な番犬ぶりです!

「アルファ・ロールオーバーがすべて良くない」というわけではありません。ただ、ミックの吠えを直すために、アルファーロールオーバーは必要なかったというだけのことです。

今までは欧米発祥のしつけ法をすべての犬に採用してきましたが、今、そういったしつけを見直すべきだという声も上がっています。犬の気質を考慮した独自のしつけ法があるべきなのではないか、と考えるドックトレーナーも増えてきています。私もこれには賛成です。

この件に関しては、今後の取り組みのなかで考えていけたらと思っています。

 

「うちのチワワは、お腹を見せないんです」と、困ったようにチワワの飼い主さんから相談されることがあります。では、お腹を見せなくてはならない理由は何でしょう?

子どものころに飼っていた犬も含めると、私は今まチワワを飼ってきましたが、一度も「お腹を見せるためのトレーニング」をしたことはありません。でもみんな、お腹を見せるのは嫌がりません。無理やりひっくり返しても大丈夫。

あるチワワなど、自分からひっくり返って「撫でろ!」と命令してくるくらいです。もちろん、叱られてお腹を見せるときもありますが、本当に謝っているようには思えないですね。「はいはい、これでいいんでしよ?」ってやられているように感じることが多いような(苦笑)。

愛犬がお腹を見せないことに悩むチワワの飼い主さんが多いのは、『アルファーロールオーバー』というしつけ法の影響もあるようです。「犬はアルファ(リーダー)にお腹を見せるものなので、何か悪いことをしたら、犬を床に押さえつけてお腹を出させて叱りましょう」という理論です。横向きに押さえつける、というのもあります。

ひざの上などでお腹を出させて、ゆっくりなでてやってリラックスさせる「ホールド・スティール」という方法もありますが、どんなにやさしくやってもパニックを起こして抵抗するチワワもいます。

よく見ていると、その様子は反抗というよりは怖がっているように見えます。

なかには最初は怖がったけれど、慣れてくるとリラックスして寝てしまう子犬もいます。なので、やってあげても問題はないですし、おとなしくできるようになったら、その格好で爪切りや歯みがきもできるし、たいへん便利だと思います。

私も以前、(とくに子犬のしつけでは)1日1回はやるようにアドバイスしていました。でも犬によってはかえって状態が悪くなりそうなケースもあり、今では慎重に扱うようにしています。

また、以前子犬を産ませ、その子育てを観察した経験から、私は人が力ずくでやる「アルファ・ロールオーバー」に疑問を持つようになりました。

子犬たちが生後30日くらいになると、母親から離れて子犬同士で遊ぶようになります。元気な子はよちよち走り出します。そのころから、わが家のチワワの子犬に対するしつけが始まりました。母犬であるチワワは、しつけらしいことはとくに何もしませんでした。たまに子犬のそばにやってきてひっくり返し、もう自分でできるようになっているのに排泄のチェックをしたくらいです。そのひっくり返す力は、人が出せるほど大きく恐怖を感じさせるような力ではありません。

母親に強引にひっくり返されるこの行動が、服従のポーズにつながっていると言われていますが、それ以上に群れの成犬、とくにオス犬たちが担う子犬のしつけがお腹を出す行動に重要な役割を果たしたと実感しています。

子犬が興奮しすぎて走り出したりすると、父犬が飛んでいって「ガウッー」とうなって子犬をひっくり返すのです。結構な迫力でやりますので最初はいじめに見えます(笑)。子犬は数頭いましたので、ひっくり返っては起き上がってくる子犬たちを、まるでたこ焼きをひっくり返すように。今度はこっち、次はあっちとひっくり返していました。

子犬たちは最初びっくりしますがだんだん慣れて、まるでソンビのように蘇り、再び父犬にガウられに向かっていきました。父犬にさんざんひっくり返された子犬たちは、私が四つんばいで近づいて鼻先で押してやっても、いとも簡単にひっくり返るようになりました。

父犬9歳と4歳になった当時の子犬のうちの1頭は、今でもこの教育的指導噛みごっこ(?)をやっています。子犬が興奮しすぎると、父犬が
子犬のマズルをくわえてたしなめるのです。また、子犬が父犬にたしなめられたいときは、わざわざ伏せのポーズで下から「噛まれに」いくのです。父犬が、小さな子犬に近づいて、フセのポーズでマズルの下に入る姿は、なかなか興味深いものがあります。

わが家の犬たちは、すべて同じブリーダーさんのところから来ました。みんなブリーダー元のボス犬にひっくり返され続けた経験があるからこそ、今、ひっくり返されることに何の抵抗もないのだと思います。

お腹を見せるのを異常に嫌がるチワワを見たとき、その子は母犬や父犬がしたようなしつけを受けていないのではないか、あるいは受けた時間が短かったのではないか、と考えるようになりました。

慣れていないから怖くてパニックになってしまう。抵抗する理由は、飼い主への反発ではなく恐怖なのかもしれません。それを。不服従‘ととらえてしまうのは、相手を正しく理解してやれているとは言えないような気がします。

お腹を出したからといって、飼い主に服従しているということではないし、お腹を出さないからといって服従していないということではないと思います。

お腹を出すことは無理に教えることではありませんが、出せたほうが良いこともあります。たとえば、お腹の触診、心音を測るなど、動物病院ではお腹を出すとスムーズに診察ができます。愛犬がもし苦手なようでしたら、まずは信頼関係を築いてからゆっくり慣らしてやるべきだと思います。自信がない場合には、ドックトレーナーなどに相談してみましょう。